REPORTレポート
代表植村の自伝的記憶
民営化を越えた新しい官民連携の時代に
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1999年にPFI法ができて以来、日本では民間の資金やノウハウを公共・社会インフラに活用する動きが徐々に広がっています。現実には、民間のノウハウや経営力を活かす形になっていないなど従来のPFI(民間資金を活用した社会資本整備)には課題もありますが、2011年の改正でコンセッションが導入されたように、その後の改正を経て、官民連携の取り組みを促進する制度になりつつあります。
それとともに、「建設」に力点が置かれていた官民連携も、つくるだけはなく、O&M(Operation & Management)、すなわち運営や維持管理などインフラ経営に重心が移り始めています。
現に、愛知県が建設を進める愛知国際アリーナ(愛知県新体育館)や日本スポーツ振興センター(JSC)が進める秩父宮ラグビー場の建て替えでは、投資・開発の段階で民間資金とノウハウを投入し、O&Mの段階で民間活力の最大化を図る「BT(Build Transfer)+コンセッション」が採用されました。
「BT+コンセッション」は民間コンソーシアムが施設を建てた後、所有権を公共に移した上でコンソーシアムが長期(愛知国際アリーナや秩父宮ラグビー場の場合は30年)にわたって施設を経営するという仕組みで、民間が自身の経営力を活かして収益増を目指しつつ、スポーツとエンターテインメントによる地域活性を図る、運営や維持管理に力点を置いた官民連携の一手法です。
また、従来は空港や上下水道、道路などの公共インフラがコンセッションの主な対象でしたが、昨年6月に国が定めた新たなPPP/PFIのアクションプランでは、スタジアムやアリーナ、美術館などの文化・社会教育施設、国立大学、交通ターミナル、公園など、地方自治体にとって身近で取り組みやすく、地域創生につながりやすい施設が短期目標になりました。
施設やインフラにおける官民連携の幅が広がっていることは、地方創生にとっても望ましい状況と言えるでしょう。
利用者負担を抑えつつ質の高い上水道を維持するには
このように、仕組みとして整い始めた官民連携ですが、民間の資金とノウハウを活用するだけでなく、そこに社会課題解決という目線をいかにして埋め込むかが今後の課題だと感じています。
例えば、上水道が分かりやすいと思います。
上水道は設備の老朽化が進んでおり、地域によっては更新が必要なフェーズに入っています。ただ、高齢化と人口減が進む中、国や地方自治体の財源には限りがあります。財政負担に限界がある以上、将来的に料金が上がっていく可能性は否定できません。
その時に、利用者負担を抑えつつ質の高い上水道を維持するにはどうすればいいのか。
もちろん、住民が利用料の値上げを許容するのであれば現状のままでも構わないのでしょうが、広がる格差や困窮者の増大を考えれば、そうも言ってはいられないでしょう。であれば、水道の世界にも民間の資金と運営ノウハウを導入し、上水道の運営を効率化していく他にないと思います。
実際、水事業を営む海外企業の経営者と話す機会もありますが、欧米で水道事業を営む企業と自治体が運営する日本では、効率性やコストの面で大きな差があると思います。
その要因は、やはり職員の数でしょう。海外の水道事業はDXが進んでおり、現場の人員が圧倒的に少ない。人員の再配置が可能なように新たな事業を生み出す必要はありますが、水道事業の効率化は避けて通れないように思います。
その時に必要なのは、地域の受益者が効率化のメリットを得られる仕組みを作ることです。
水道事業に必要な官民連携
水道事業のようなインフラは、中長期的に安定的なリターンを得られるため、年金のような長期投資家に最適な投資先です。水道事業のコンセッションは始まっていますが、まだ年金マネーは入っていません。年金マネーが自国のインフラに投資し、リターンを得るというのは自然な形だと思います。
あるいは、地域住民が主体となって受け皿を作って資金を調達し、そこに水道事業を営む企業が参画してもいいかもしれません。
水道事業を獲得した民間コンソーシアムが効率的で透明性の高い経営をすれば、それなりの収益は上がるはず。その収益を利用料の維持や低減だけでなく、地域に還元していくということです。この点は、民間コンソーシアムの資本構成を工夫すれば対応は可能です。
もちろん、水道事業のDXによって余剰となるであろう人員の雇用の場を官民連携によって生み出すことも必要です。
水道事業など社会インフラのコンセッションについて、民間企業が運営することで料金が上がったり、サービスが低下したりするという批判は今も根強くあります。
ただ、「やむを得ない値上げの場合は理由を示した上で、議会の承認を必要とする」など、料金設定やサービス品質に関する縛りを入れれば解決できます。住民の生命に直結する水だからこそ、行政が品質基準を継続してモニタリングすることも必要になるでしょう。
そういった条件の下、維持管理の効率化など様々な工夫を通して水道事業で利益を出せると考える企業が入札に参加してくるわけです。そして、契約した以上は契約に則って経営しなければなりません。
加えて、水事業の官民連携にはカーボンニュートラルの実現という目的もあります。水力発電用ダムのデジタル化に始まり、上水道や下水処理場の省エネと創エネはエネルギー政策の重点項目賭して取り組むべき課題だと思います。
事業の収益を地域に還元する新しい官民連携
官民連携は入札や発注のところが大きく進化しています。いわゆる民営化ではなく、投資や開発、運営などの各フェーズで、透明性を確保しつつ官民の役割やリスクの適切な分担が可能になっている。「新しい官民連携」とタイトルに書いているゆえんです。
先ほども書いたように、水道事業の運営に住民が関与することも可能な時代です。住民参加型や地域企業参加型の民間コンソーシアムが水道運営会社となり、大企業や公共が不足する部分を補う──。これこそが、目指す姿のように思います。
ここまでの話は、上水道の話だけでありません。
スタジアムやアリーナであれば、地域の企業やプロスポーツ団体、金融機関などがコンソーシアムを組み、地元プロスポーツ団体のサポートやエンターテインメントによる地域の活性化を都道府県や地元自治体に提案する。美術館や博物館であれば、海外イベントを誘致したり、地域のアーティストとともに海外への発信力を強化したりする。
スタジアムやアリーナ、美術館などの文化施設ができれば、地域経済や文化の醸成に寄与します。そうなれば、地域で暮らしたい人や観光客が増加し、新たな経済効果が生まれるでしょう。しかも、施設を建てるだけでなく、運営や維持管理を通して地域の企業や組織、住民が安定的に収益を得ることもできる。
適正な官民連携の仕組みが実現すれば、施設の運営に伴う公共の赤字補てんがなくなり、整備にかかる公共負担も減らすことができるはずです。そのためには、民間が自由に経営できる余地を残さなければなりません。
高齢化と人口減少に直面している日本でも、官民連携の仕組みをうまく活用すれば、社会インフラの持続的な運営と地域の発展を両立させることができると信じています。2023年が、新しい官民連携の始まりの年になるよう、尽力していく所存です。
WRITERレポート執筆者
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植村 公一
代表取締役社長
1994年に日本初の独立系プロジェクトマネジメント会社として当社設立以来、建設プロジェクトの発注者と受注者である建設会社、地域社会の「三方よし」を実現するため尽力。インフラPPPのプロジェクトマネージャーの第一人者として国内外で活躍を広げている。
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