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キャッセン大船渡・震災復興エリアマネジメント(前編)|地方創生最前線

地方創生とは、政府、地方自治体、企業が一体となり、地方における人口減少を食い止め、地域経済を活性化させる目的で、2014年から始まった地方活性化の政策です。
 
具体的には、「急速な少子高齢化の進展に的確に対応し、人口の減少に歯止めをかけるとともに、東京圏への人口の過度の集中を是正し、それぞれの地域で住みよい環境を確保して、将来にわたって活力ある日本社会を維持していく」ことを目指すものです。
 
シリーズ「地方創生最前線」では、国内における地方創生の取り組み事例について紹介すると共に、関係者へのインタビューも併せてお届けします。シリーズ初回となる今回は、岩手県大船渡市における「キャッセン大船渡」を取り上げて紹介していきます。
 
1. 「キャッセン大船渡」へ繋がる震災復興エリアマネジメント
「キャッセン大船渡」の誕生は、東日本大震災・津波の復興支援の取組みの一つであったエリアマネジメントがきっかけとなります。まず、2011年3月11日に発生した東日本大震災を受けて、株式会社インデックスコンサルティングと関連会社である社会システムデザイン株式会社のメンバーが中心となって一般社団法人東日本未来都市研究会(以下「研究会」と記す。)を設立し、岩手県気仙地域(大船渡市・陸前高田市・住田町、図1)の復興に向けた支援活動を行っていました。
図1:岩手県気仙地域2市1町岩手県気仙地域2市1町
 
そして、2012年末に地元2市1町と研究会が共同で提案した「気仙広域環境未来都市構想」が政府に採択され、単なる復旧ではない、未来志向のまちづくりをめざした復興支援の取り組みがスタートしました。この取組みは、2015年に国連で採択された「SDGs=持続可能な開発目標」の精神を先取りした構想でもありました。計画には図2に示す5つのプロジェクトが含まれますが、そのうち2番目の「コンパクトシティ整備」を目指して大船渡駅周辺地区で進められたエリアマネジメントの取り組みが「キャッセン大船渡」へ繋がることとなります。
図2:気仙広域環境未来都市推進共同事業体気仙広域環境未来都市推進共同事業体
 
2. エリアマネジメントに向けた具体的な取り組み
大船渡駅周辺地区で進められたエリアマネジメントの取り組みにおいて、研究会は2012年度の「大船渡駅周辺地区まちづくり支援業務」委託を大船渡市より受けて、「環境未来都市ガイドラインづくり」、「津波復興拠点整備区域への提案」、「まちづくりのブランディング」と「民間投資の促進検討」を行いました。
 
例えば、「津波復興拠点整備区域への提案」では、建築家や観光の専門家を含むプロジェクトチームを組成し、“海を活かしたまちづくりプラン”を提案しています。これは、最初に地元のまちづくりリーダーらとのワークショップを設け、彼らの街の復興に対する思いをくみ上げてまとめた提案でした。また、土木工事による盛土・嵩上げでなく、デッキで人工地盤を作り、海との繋がりを活かす提案は一部の地元市民に受け入れられましたが、最終的には防潮堤と盛土による従来通りのプランに沿って事業が進められています。
 
図3:海を活かしたまちづくりの提案(一例)海を活かしたまちづくりの提案(一例)

また、「まちづくりのブランディング」では、気仙地域の観光資源に光を当て、強みを活かす方法について提案しました。特に世界三大漁場のひとつである三陸の豊かな海の幸を活かした食文化の磨き上げやアクティビティの活性化について力を入れた提案でした。
 
さらに、気仙地域に古来伝わる黄金伝説とマルコ・ポーロが東方見聞録で描いたジパングの物語を結び付け、神戸からコロンブスの乗ったサンタ・マリア号の復元船を譲り受ける企画立案にも携わりました。この企画は、残念ながら実現には至らなかったものの、研究会の提案した海を活かしたまちづくり=「物語の海へ」は、今も地元有志の方々に引き継がれ続いています。
 
3. エリアマネジメントの実現に向けた、まちづくりの事業スキーム(仕組みづくり)
計画構想段階を経て、2013年度には大船渡地区津波復興拠点整備事業のための3つのワーキンググループ(WG:エリアマネジメント、行政施設及び商業業務施設)が立ち上げられ、研究会から各WGに計5名の委員が選出されて参加しています。
 
この中で、研究会は、官民連携のまちづくり組織を立ち上げてまちづくり会社(エリアマネジメント会社)を組成し、参加する官民ステークホルダーの役割・機能を明確化した事業スキームを大船渡市に対して提案すると共に、市が実施する事業提案募集の要項作成や事業者ヒアリング等をサポートしています。
 
「地元の商業者だけでは元々あった商店街の復旧はできても将来にわたり持続可能な発展は難しい。」「外部の大手資本を誘致する、どこにでもある郊外開発型のまちづくりにも地元の人々は懐疑的である。」といった課題に対して研究会が提案したのは、全国展開する大手資本と地元の商業者が共にビジョンを共有してまちづくり会社を立ち上げ、そこに自治体や商工会議所、地元の金融機関も出資して、自分事として中心市街地の再生と活性化を進めていくまちづくりの仕組みでした。
 
また、復興まちづくりにおける官民連携のエリアマネジメントのスキームに賛同した大和リース株式会社がエリアマネジメントパートナーに選ばれ、2014年3月に大船渡市との間で協力協定が結ばれました。
 
そして、2014年度には大船渡駅周辺地区官民連携まちづくり協議会が立ち上げられ、この協議会を母体として官民が出資するエリアマネジメント会社「株式会社キャッセン大船渡」が2015年12月に設立されたのです。
 
4. 足かけ4年のまちづくり「キャッセン大船渡」のまちびらき
この「株式会社キャッセン大船渡」を中心に大船渡駅周辺地区のまちづくりが進められ、2016年3月に第1期まちびらき、2017年4月には第2期まちびらきが行われ、現在の「キャッセン大船渡」に至ります。そして、株式会社キャッセン大船渡によるエリアマネジメントは、その取り組みが高く評価され、2017年度の日本都市計画家協会「日本まちづくり大賞」を受賞。2022年3月には、総務省の「ふるさとづくり大賞」を受賞しました。
 
このように、「キャッセン大船渡」は、2012年末に「気仙広域環境未来都市構想」が政府に採択されてから2016年の「第1期まちびらき」まで約4年といった長期に渡り、政府、地方自治体、企業が一体となり、地域の活性化に向けた地方創生の取り組みであることが分かります。
 
本レポートの後編では、キャッセン大船渡でエリアマネージャーを務める臂 徹(ひじ・とおる)氏へのインタビューを行い、復興まちづくりの現在についての生の声をお届けします。

キャッセン大船渡 全景
インデックス キャッセン大船渡全景
かもめテラス
かもめテラス
おおふなポート
おおふなポート
キャッセンモール&パティオ
キャッセンモール&パティオ
スリーピークス・ワイナリー
キャッセンモール&パティオ
 
 
出典:衆議院(http://www.shugiin.go.jp/Internet/itdb_housei.nsf/html/housei/18720141128136.htm)
出典:内閣府・地方創生(https://www.chisou.go.jp/sousei/)

キャッセン大船渡・震災復興エリアマネジメント(後編)
キャッセン大船渡 臂徹氏





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